2013-07-09

包囲




アレッポとイドリブに住む教え子たちが、自分たちの住む地区での包囲のニュースを伝えて来た。



彼らは、砲撃にさらされることを恐れて、数ヶ月前から政府軍制圧下の地区に移り住んでいる。政府軍制圧地域だと、検問が道の至る所にあるものの、少なくとも空爆や砲撃は来ない。



これらの地域で、彼らは親戚の家や知人の家を間借りし、また国外などに移住して空き家になっている場合は、家の管理も含めてそこに住んだりしている。



しかし、この数週間、これらの地区は政府軍制圧下ということで、自由シリア軍に包囲を受け始めた。中に住んでいる人々は様々で、勿論反体制派の人、自由シリア軍シンパの人も多い。しかし、そんな事とは関係なく、『作戦』として包囲作戦がとられている。



包囲。軍と軍との戦いの中では、あり得るオプションなのかも知れない。だがこの包囲の為に、一般の人々は身動きがとれず、また食料品、医療品などの必需品の供給路も閉鎖されてしまっている。イドリブの教え子は、まさしく「中世」の攻城戦だ、と形容する。



それらの包囲をかいくぐって闇で売られている野菜やパンは、わずか5km離れた非包囲地区の10倍にもなっているらしい。例をあげればトマトが1kg400ポンドだとか。騒乱前の価格、25ポンドとは全く比べ物にならない。しかも、供給量は雀の涙ほどもない。猛威をふるうインフレに加えて、包囲地区ではモノの価格は気違い沙汰のようである。



そんなアレッポの包囲地区に住む教え子のRを先日ようやくオンラインで捕まえたとき、彼女は開口一番、冗談を言った。「先生、アレッポで何が起こってるか教えて。きっと日本にいる先生たちの方が、私たちよりももっと状況が分かってると思うわ。だって、こっちじゃ停電でテレビも見られないし、ネットも使えないし。」



日々の食事に関しては、野菜は高過ぎて買えず、日常はとりあえず保存食で食いつないでいるという。「だけど、文字通り、本当に家に何もない人たちがいる。本当に切羽詰まっている。だから、今は物乞いをする人がものすごく多くなりました。昨日もバスの中で、横に乗っていた女の人が物乞いをしていたわ。」



彼女は続けた。「そして、悲しい話だけれど、盗みも増えているの。こんな事は、前はありえなかった。先生も知ってるでしょ?」



ホムスで支援活動を続ける娘の友人Sちゃんからも昨夜、メッセージが来た。彼女の所属する団体には、日本の人道支援団体NICCOから、今回支援金を送ってもらっている。彼女からのメッセージには、「ラマダン月に入るので、送ってもらったお金で基本的な保存食料以外に、お肉を少し買ってあげてもいいでしょうか?」とあった。



彼らは生活の中に、ほとんど選択の余地をなくしている。そして、生活は日一日と締め付けられる。そのなかで、物理的な包囲以上のものが人々の心にのしかかるのだ。
 

騒乱が起こってから三度目のシリアのラマダンは、人々を何重にも包囲しながら始まろうとしている。