2012-09-03

過ぎ去る夏

アレッポとの通信は、まだ、ほぼ途絶えたまま。しかし、数日前、数分間だけ、教え子のAと話すことが出来た。状況が変らないことには違いないが、日を追うごとに具体的な問題がでて来ているらしいことを彼女は伝えてくれる。

例えば、彼女の家である。今、彼女の家には、サラーハッディーン地区の家を潰され、逃げてきた兄弟の2家族が同居している。しかし、別の地区にある彼女の大家の自宅が爆撃で潰れ、彼女一家(今となっては3家族)の借りている家に住まざるを得なくなったらしく、家を明け渡してほしい、と言って来たという。仕方なく、ハレイターンという、アレッポ市街から15分ばかりの村にある親の実家にみんなで移ることにしたらしい。

まだ、行く先があるだけマシです、と彼女は言う。行く先さえわからない人が多いのだからと。とにかく、彼女らは今、引越しをせざるを得ない。それも無事に済めばいいのだけど・・・。

彼女は小学校の先生をしている。9月になって学校が始まったら、あの田舎から通うのだろうか、と心配になったが、それよりも何よりも、この新学期、アレッポで学校を開くことが出来るのだろうか?という疑問が残る。

教育省は、勿論、新学期は例年通り始めると通達しているらしいが、彼女は言う。「今、学校はどこも避難民でいっぱいです。もし学校が始まったら、彼らは行き場がない。通達は、建前だけ。実際どうするべきなのか、検討がつきません。」「しかも、アレッポでは、親はこんな状況の中、子どもを学校に送るのを非常に恐れています。アレッポから出た人もいっぱいいるし。まともに学校が開けるとは思えないですよ。」

実際問題として、子どもだけではなく、大人も町をまともに歩けるのだろうか。

たまたま、今日オンラインにいたホムスのSちゃんに聞くと、彼女のアレッポに残る両親は、ようやく昨日、少しだけ外出することが出来た、と言っていたらしい。しかし、それも限られた地域のみで、アレッポの中心部でも一部(サバア・バハラート周辺)は、狙撃者が「うようよ」居て、危険極まりないらしい。

夏はもうすぐ終わる。

普通ならば、新学期のかばんを買ったり、文房具をそろえたりし始める時期だ。娘が就学中は、この時期、制服を買いにいったり、色指定のノートのカバーを探しまわった。この時期、秋を運んでくる涼しい風の中、夕方の町に出るのは、それなりに楽しみだった。

辻つじにいるとうもろこし屋の、甘いとうもろこしをほうばるのも楽しみだった。
あのそぞろ歩きの宵の、店の明かりが、ぼうと脳裏に蘇る。