2013-02-09

夫への手紙

ハミードさん、あなたが私の前から居なくなって、今日(2月8日)で1年経ちます。この1年で、アレッポの、そしてシリアの状況は、加速的に劣化しました。あなたが、シリアの暖かい思い出を全て持って行ってしまったように感じることもたまにありますが、シリアの友人からの便りを読むたびに、そんな感情とは別に、時の歯車は回り続けていることを認めないわけにはいきません。

あなたの眠るビレーラームーン村には、今誰も住んでいません。村中が激しく破壊されて、くずおれた建物の一角に自由軍がひそみ、レジスタンスを続けています。すぐ脇のザハラ地区に政府軍が陣取っていて、そこから砲撃が村に繰り返されているという事です。

ハムドゥーは今、カファル・ハムラ村に避難し、弟のフセイン一家と一緒に住んでいます。たまに危険を冒してビレーラームーン村に行く事もあるようですが、あるとき、お義父さんの家が完全に潰されたのを見た、と言っていました。村はずれの義妹のアミーナの家は、ザハラ地区に一番近い事から、かなり早いうちから村の中でも最も危険な場所だったので、勿論家族共々別の村に逃げて、今は他の義妹たちの家族と一緒に住んでいます。

マフムードも逝ってしまいましたが、あのあと、残ったあなたの兄弟、従兄弟たちは逆に連帯感を強めて、自衛活動や救援活動を継続しています。フセインは元判事の経験をもとに、現在起こっていることを、法的に追っていこうとしているようです。

私は、日本にいて、彼らの動きを垣間見るしか出来ないのですが、それぞれが自分の置かれた時空の中で、立ち止まらずに何かを探しています。歴史を学んできた私たちですが、現在シリアで起こっていることは、図らずも私たち自身が「歴史」の中に組み込まれているのだということを、肌で感じさせてくれています。それは、途方もない痛みを伴なうものではあるのですが。

こんな訳で、今はお墓にお花を捧げる事も出来ません。ハムドゥーがあなたのお墓に植えてくれたオリーブの木は、少しは大きくなったのでしょうか。早く枝葉を伸ばして、あなたの上にやさしい陰を作ってくれればいいのですが。そして、その頃には、シリアにも新しい芽が芽吹いていればいいのですが。