2013-12-05

刺繍糸が埋めるもの



トルコに逃れているシリア人避難民の女性たちから最初の刺繍が送られて来たのが7月9日。最初の便で送られて来た作品は、出来にばらつきがあり、非常に丹念に刺されているものもあれば、糸がうまく図案にのっていなかったり、刺し忘れの部分があったりした。



刺繍の先生をしている友人にアドバイスをもらい、細かい点を指摘したコメントを女性たちに伝えた。コーディネーターの女性は、私たちのコメントを素直に聞き、女性たちに伝えてくれた。



第一便から1ヶ月半あまり経って来た次の便は、私たちのコメントを反映して、細かい点が随分改まっていた。皆、がんばっていいものを作りたいとおもっているから、コメントがあったらどんなことでも言ってほしい。そうコーディネーターの女性は伝えてくれた。



直接指導ができないもどかしさがあるが、それでもコメントは一つずつ反映されて行った。



第四便を作成中、彼女ら独自で考案した、しかしシリアの伝統の形のモチーフを入れてもいいか、との問い合わせが試作品の写真とともに来た。可愛らしい壷をかたどったモチーフだった。一目で気に入った。そしてこの前届いた第五便には、人気のモチーフだった「モスク」をさらに彼女らがアレンジしたバージョンが入っていた。



色鮮やか、だけど、やっぱりどこかゆるキャラね、シリア人だわ、と届いた刺繍を額にはめ込みながら思った。



少しずつ進化している。それはトルコで避難生活を続けている彼女たちの感性の賜物。そして、その感性は日本にいる私たちをも動かしてくれている気がする。



しかし、支援の規模としてはまだまだ。今からまた冬が来て、暖をとるにもお金がいる。そんなことが心配で、と先日、現地のコーディネーターのMさんにもらしたら、彼女はこう言った。



「確かにそうだけど、彼女たちにとって、時間を埋めてくれるすべがあることが今は一番いいことなのよ。みて、こうやって一針ずつ空間を埋めて行く。それは時間を埋めて行く事でもある。何もしないで国のことや亡くなった人たちのことを考えるのは、ものすごくつらいことよ。しかも空虚な時間があると、悪い方にばかりものを考えてしまう。」



「彼女たちの名前を刺繍に書いたでしょ?あれがフェースブックにアップされたとき、彼女らがどんなに喜んだか、貴方は知らないでしょ。彼女らは、あれで、本当に遠くにいる日本人に、自分たちのことが知らされたんだ、って大はしゃぎだったんだから。」



「今度はグループで一番若いラギダの刺繍をアップしてやって。だって、彼女は自分の作品の番はいつくるの、ってものすごく楽しみにしてるのよ」



お金だけではないのだ。食べるものも、着るものも、中には寝る場所にも事欠くような、こんな異常な事態にあって、彼女らは喜びを見つけてくれている。



刺繍の艶やかな糸が、彼女らの微笑みをさらに増してくれますように。