2012-04-08

Sさんの涙


夫の逝去に伴う弔問の3日間が終わった数日後、世話になっている友人のSさん宅でお茶を飲んでいると、Sさんが深刻な顔をして入ってきた。

「ヤヨイ、帰国を早めたほうがいいわ。ひょっとしたら、フライトがキャンセルになるかもしれないわよ。」と言う。私も、カタール航空がフライトを停止したと言うニュースは聞いていたが、他の航空会社に関してはまだ何も起こったとは聞いていなかった。

まだもう少し気持ちが落ち着くまでシリアにいたいと思っていた私は、そうね、と気のない返事をした。

すると、彼女は少し、強い口調で続けた。「ヤヨイ、今は非常時なのよ。私には十分過ぎる重荷があるのがわかる?先の見えない状態で子どもたちのこと、自分たちの生活のことを考えなきゃいけないの。しかもあなたたちのことも、ここにいたら私の責任だと思うのよ。何かあったら、私の責任だと思ってるの。その責任がすごく重いの。葬儀は終わったのよ。なるべく早く動く決心をして。」そして、涙声になって、ソファに崩れるように座った。 

私も、奈々子も、Gちゃんもいたが、みんなびっくりして彼女のそばに寄った。あの気丈なSさんが泣いている。いつも冷静に、どんなときでも冗談を言いながらサラリと物事を納めてきた彼女が。

「疲れてるのよ。今は前みたいじゃないのよ。」

帰れるところがあるなら、ここにいることはない。状況はそこまで来ている。なのに、私は心の隅で甘えていた。何も言わずに暖かく迎えてくれたけど、彼女にはかなり負担だったのだろう。

「こんなときに、会うことになってしまって・・・。でも、いつか、前みたいに楽しく会える日が来るわ。だから、今は・・・。」と、気を取り直した彼女が言った。ごめんね、が言葉にならなかった。

あれから約2ヶ月が経つ。時折のチャットの際も、彼女はまだ元気がない。

「情勢が良いほうに動く確信はあるわ。いつかはわからないけど。でもテレビのニュース番組は見ないことにしてるのよ。暗くなるだけだから。」数日前に彼女はこう言ったが、これは彼女の家からほど遠くないところで銃撃事件のあった日の翌日だった。