2012-04-26

アズィズィーエの一角で


アレッポで、航空券やその他旅行の手配をするときは、20年来友人のJの代理店でやってもらっている。アズィズィーエという、アレッポでも一番の繁華街に店を構え、シリアのこの業界の中でも最も信用の置ける代理店の一つである。従業員は7-8人で、ほとんどがクリスチャンであるが、彼はムスリムである。

この2月にフライト変更手続きに行ったときは、シリアへの制裁の関係でいろいろ面倒なことが多かったが、それをいやな顔一つせずにやってくれた。一番大変だったのは、ダマスカスに代理店のある航空会社への変更料金の支払いである。

クレジットカードも使えない状況になっており、ドル現金をダマスカスに送るわけにもいかず、彼がとってくれた手段は、彼の店と取引のあるダマスカスの店で、ドルの「ツケ」のあるところを探して、その店のヒトに航空会社までドルを届けてもらうと言うものだった。

この操作をしていると、発券までにちょっと時間がかかりそうだ、と彼がすまなそうに言った。いいお天気の日で、「危険」と言われた町歩きも、ここならばそれほどでもないだろうと思い、私と娘でアズィズィーエを久しぶりに歩いてみることにした。

外にでて、アレッポの中ではしゃれた店がある一角を少し歩いたが、ここでもかなり店が閉まっている。レストランも一部店じまいをしている。ただ、ホブズを売るベーカリーのところだけが、いつものような人だかりがあった。焼きたてのホブズのこうばしい匂いだけが、アレッポにいることを実感させてくれるようだった。

さらに歩いて、Mango(洋品店の名)の前に出た。つい数ヶ月前まで、素敵なショーウィンドーを誇っていたこの店も、今は中ががらんどうになっていた。

若干意気消沈しかけたが、奈々子が、このすぐ先に、おいしいサンドイッチ屋があるよね、と言ったので、気を取り直してサンドイッチを食べることにした。

普段なら、ひっきりなしに客の来るサンドイッチスタンドだが、今日は私たちしかいない。時間も12時を過ぎているのに。

レバーのサンドイッチと、飲み物を二つずつ頼み、店の前で食べる。このサンドイッチとジュース二人分の合計は日本円にして約300円である。日本の感覚からすれば、ずいぶん安いのだが、以前の価格からすると、かなり値上がりをしている。

飲み物の封を開けるのにてこずっていたら、店の前に椅子を出して座っていたアルメニア人と思われるオヤジさんが「かしなよ」と言って開けてくれた。シリアではこんなやり取りは、極めて当たり前である。だけどこのときは、このなんでもない気使いがやけに心に浸みた。