2012-04-04

義弟Mの話


停電の暗がりの中で、お茶を飲みながら義弟Mの話を聞いた。

彼はホムス県内のシン地区の勤務を昨年から行っている。この地区は、ホムスのなかでは一番「戦闘」の激しい地区からは若干外れているが、しかし、生々しい様々な事例に遭遇せざるを得ない。

また、警察官である彼の立場は現在、極めて微妙である。と言うのは、所属だけを見れば政府側になるからである。しかし、彼は現政権の過ちを十分に知っており、立場を忘れてモノを言えば、現政権に嫌悪感を抱いている。

しかし、今回、好むと好まざるとに限らず目の前の「革命」を初期の段階から「取り扱う」しかなかった彼は、「問題は政府側か反政府側かということではないと思うんだ」としみじみと言う。「だってヤヨイ、あんただって、僕が世に言われているような血も涙もない政府側の殺人鬼だなんて思わないだろ?」と言って、ある出来事を話してくれた。

ある日、彼がホムスのある地区の警備に行った際、武装集団が道の両側の建物から銃を乱射してきた。彼と数人の同僚は車の下にもぐりこむしかなかった。そのときは、200発ばかりが撃ち込まれたようだが、警備側は約50発を撃ち返したのみだったという。マフムード自身は1発だけ撃ったというが、その一発も人に向けてではなく、街灯に向けて撃ったのだと言う。自分たちの居場所が街灯に照らされて相手側に知られるのを防ぐためである。「勿論、人は撃ちたくないよ。」と淡々と語り、現場と報道がかけ離れていることを訴える。

それでも警察官でいるの?と言うと、「だって、どうすればいいんだ。警察官全部が悪者じゃないし、僕は僕なりに必要な任務をしてるんだ。やめてどうなるんだ。しかもかえって、やめたことで命を狙われたりしないとも限らない。悪意を持って仕事してるわけじゃない。」
 
 そして、「理性のない武装集団がこの革命の名を借りてなぜか、革命家のような顔をしている。それが気に食わないよ。不条理がまかり通り始めている。」と彼は憂える。

彼は職務として、ホムスの状況を見ざるを得ないわけであるが、同じ家で、上階のフラットに行こうと階段を上っていた際に、狙い撃ちに合って亡くなった人の例や、ある朝起きて外に出たら、どこで殺されたかわからない人の死体が投げ捨てられていた例など、茶飯事になっているという。

惨殺死体の処理なども彼らの仕事らしく、そのたびに吐き気をもよおすらしい。「毎日、見るに忍びない死体ばっかり見てたら、肉だけじゃなくて、食欲も何にもわかないさ。」

昨年、闘争が始まった段階で、子どもたちはアレッポに疎開させ、今は妻と二人でホムスに留まっている。しかし、状況が日増しに悪くなっていっていることから、今回帰ってきたのを機会に、妻はアレッポに留まり、彼は単身赴任となるらしい。