2012-03-01

不思議なこと

1月31日の早朝、と言ってもまだ3時前に、シリアの夫の甥っ子に電話した。昏睡状態でも、聴覚は残っていると言うことを読み、せめて、私の声を夫が聞いてくれれば、と思ったのである。夫は集中治療室にいるが、友人の医師が勤めている病院である。彼女に頼んで、甥っ子に集中治療室に入ることを許可してもらい、携帯を耳のところにあてがってもらえばいい。そう思い、友人の医師にメールをしたら、okの返事が返ってきた。

甥っ子にその旨を告げ、電話を待った。約1時間後に電話が鳴った。「話して」甥っ子に促され、必死で話した。わかる?私、ヤヨイ。大丈夫だよ。と言ったあと、「数日後に行くからね、絶対アレッポに行くからね。会えるよ。」と何回も繰り返した。電話を切ったあと、甥っ子に礼を言おうと、数分後に再び電話をした。

そのときに不思議なことが起こったのだ。電話が受信されて、耳に飛び込んできたのは、夫のイントネーションで、英語で「危ないよ」という声だった。そのあと、甥っ子が「どう?しゃべった?これで少しはほっとした?」と聞いてきた。礼を言って、電話を切ったが、あの声はなんだったのか?声は少し若く聞こえたが、まさしく夫の話し方だった。ましてや、あの文脈で、甥っ子がそんなことを、しかも英語で言う筋合いもない。あれは、どう考えても、私の「アレッポに行くよ」と言った言葉への返事である。元気なとき、「アレッポに行きたい」と言った私に、いつも「今は危ないよ」と言っていた、彼の受け答えそのものなのである。

ちなみにアレッポで、甥っ子に会ったとき、このことを確認した。彼は、「え?英語で?そんなこと言わないよ、他に誰もいなかったんだし。」ときょとんとした。

私の「行くよ」と言う言葉に、夫が答えてくれたとした思えない。但し、甥っ子の口を借りて。そうとしか考えられない。そして、あんな状態でありながら、私を気遣ってくれていたのだ。

ニュースは、シリアでの殺戮が依然として続いていることを伝える。アレッポでも死者が出たといううわさも、耳に入ってきていた。

夫の「危ないよ」と言う声が、今でもずっと耳に残っている。