2012-03-07

身近なアレッポの状況


夫との面会を済ませて、集中治療室を出た。

甥っ子のハムドゥが待っていたので、Sさんには娘を連れて先に帰ってもらった。彼女は、「長旅のあとなんだから、あまり遅くならないでね。停電もあることだし」と言って帰っていった。停電のことがなぜこの文脈で出てきたのかわからないまま、ハムドゥと病院のカフェに入った。

ハムドゥに、夫の今回の病気に関しての大まかな経過を聞いた。最初の発作が起こったときは、意識はあったとのこと。とはいえ、病院に運び込まれたあと、処方された注射液が、なかなか見つからなかったと言う。

シリアでは、医者の書いた処方箋をもって、おのおの薬局へ行き、薬を調達するのが普通である。「みんなして、そこらじゅうの薬局を探したんだけど、なかなか見つからなかったんだ」シリアに外国の制裁が下されてから久しいが、薬などは、制裁外だと聞いていた。しかし、やはり何らかの影響は出ているのだろう。

それから自然と現在のシリアの状況の話しになった。全般的なことはネットのニュースで知ってるだろ、日本のほうが何でも見られるからなあ、と冗談を言いながら、「実はおじさん、何回か村であった反政府デモに出てたんだ」と打ち明け始めた。

「おじさんの友達も出てた。おじさんのほうが知名度があるから目だってたんだけど、あるとき、友達のほうがつかまっちゃった。おじさんはすごく嘆いてたよ。僕は今におじさんも捕まると思って怖かった」「こんなことを言ったら、きっと心配すると思って言わなかったんだ」と彼は、以前のチャットの際に「アレッポの状況はそんなに変らないよ」と言ったことの言い訳をした。

それから、さらに身近に起こったことを聞かせてくれた。「従妹のA知ってるだろ?彼女のダンナもデモに出てて捕まって、一時拘留されてたんだ。帰ってきたときは、体中にタバコの火を擦り付けられてたよ。」

「Fおじさんとこの、自動車学校でも銃撃事件があったんだ。職員の一人が反政府だったらしくて、治安から目を付けられていた。つい最近なんだけど、治安当局が学校に来て、銃を撃ち始めたらしい。結局3人死んだらしいよ。おじさんは直接関係ないけど、自分の経営してる学校でこんな事件があって、今大変なんだ。いろいろ処理があるだろ。」

衝撃だった。自動車学校は、アレッポの郊外にあるが、周囲を囲む丘はところどころ潅木が生え、野草もよく茂る気持ちの良い場所で、ここで夫や友達を誘ってよくバーべキューをしたものだ。あんなところでも血が流れてしまった・・・。

少し、ハムドゥと長話をしてしまったようだ。10時半近く、Sさんの家に送り届けてもらい、インターホンを押したときにSさんが言ったことを思い出した。

停電。

携帯で電話をした。上からのロックも停電で開けられない。息子のH君が、降りてきてドアを開けてくれた。